「HubSpotを導入したけれど、うまく使いこなせない」
「機能が多くて、ついていけなくなった」
というお悩みをよく聞きます。
契約をして、オンボーディングも受けた。担当者がついて、初期設定も一通り進んだ。ここまでは、たいてい順調に進むのですが、この後に困る方が多いようですね。
HubSpotの公式オンボーディングは、優先度の高い目標を絞って進める設計になっています。期間はおよそ3カ月。完了すると、担当はカスタマーサクセスの側へ引き継がれます。あれもこれもとやらせない、よくできた仕組みです。私たちのときは、3つに絞って進めました。
しかし、絞られた目標の外側は、自分たちで順番を決めていくことになります。
「自分たちで順番を決めていく」という部分がキモです。
「何を先にやり、何を後回しにするか」を決めていないと、HubSpotの手が離れた瞬間から迷子になります。
月曜日のトラがHubSpotを導入したのは2024年の年末。
迷子にならずに2026年まで進んで来られたのは、優先順位付けをしっかりしてきたからだと考えています。
この記事では、設定手順のチェックリストに軽く触れつつ、「最初の3カ月で何を先にやり、何を後回しにするか」という判断の軸を中心にお話しします。
結論だけ先に持ち帰りたいというお忙しい方はこちらを。
最初の3カ月でやることを3つに絞ると以下になります。
この記事を最後まで読まなくても、この3行だけ持って帰っていただければ、初期のつまずきはかなり減らせると思いますよ。
「これからHubSpotを入れようと考えている」という方もいらっしゃると思いますので、3カ月の話に入る前に、HubSpotがどういう形をした道具なのかを押さえておきましょう。
どのHubから触っても、見ているデータは同じ1つ。だから営業が更新した情報が、マーケティング側の画面にもそのまま出てきます。リード獲得から、育成、商談、受注後のフォローまでを、ツールをまたがずに追える。ここがHubSpotの大きな強みのひとつです。
HubSpot自身は、自社の製品を「カスタマープラットフォーム」と呼んでいます。真ん中にSmart CRMという顧客データの置き場があり、その上にHubと呼ばれる道具が乗っている。そういう構造です。顧客管理(CRM)を土台にして、その上に用途別の道具が並んでいる集合体、と捉えると近いと思います。
MA(マーケティングオートメーション)のツールだと思われがちですが、それは少し語弊があります。土台は顧客データのほうです。
それでは、それぞれのHubが何を受け持つのかを見ていきましょう。私たちが実際にどう使っているかも、あわせて書いておきます。
まだ顧客になっていない人との接点を作り、関係を育てる部分を受け持ちます。メールマガジンの配信、フォームの設置、リストの管理、広告やSNSの投稿、それらをキャンペーンとしてまとめる機能などが入っています。
私たちがいちばん最初に使い始めたのがここでした。メールマガジンの作成と配信、セミナーの集客、SNSへの投稿、サイトのフォーム、キャンペーン管理。この記事で言う「マーケティング活動」の大半は、Marketing Hubの上で動いています。
多くの会社にとって、入り口として分かりやすいHubだと思います。
営業活動を記録して、商談がどこまで進んでいるかを管理する部分です。取引ごとの営業ステージ、打ち合わせのメモ、メールの開封といった相手の動き、次に連絡すべき先の洗い出しなどが扱えます。
私たちは営業の記録をここに移しました。それまではNotionで管理していたものを、会社の期の切り替わりに合わせて移行しています。受注と失注の理由を残していくと、自社の勝ち筋が見えてくるのが面白いところです。
営業がヒアリングすべき項目をまとめたプレイブックも、ここで作れます。プレイブックとは、誰が担当しても同じことを聞ける状態にしておくための道具(シナリオブック)のことです。
契約したあとの問い合わせ対応や、顧客の声を集める部分を受け持ちます。チャット、問い合わせの管理、アンケート機能などが入っています。
私たちはセミナー後のアンケートにこのHubを使っています。満足度や難易度を聞いて、そこから商談の可能性を探る、という使い方です。
サイトの右下に出ているチャットもここで、メッセージが届くと担当者に通知が飛びます。
契約後の顧客対応だけでなく、顧客の声を集める道具としても使える、と考えると用途が広がります。
WebサイトやLP、ブログを作る部分です。かつてCMS Hubと呼ばれていた領域にあたります。
私たちは最初、セミナー告知用のサイトを別のノーコードCMSで手早く作っていました。その後HubSpotへ移しています。同じ土台に載せると、サイトのフォームから入ってきた人がそのまま顧客データにつながるので、あいだの手作業が消えます。
ページ制作もよほど凝ったことをしない限りは、ノーコードCMSのようにエディター上で構築が可能。もちろん、一般的なブログサービスと同じ感覚で記事も書けます。
AIを使ったコンテンツ作成や最適化の機能も含まれています。ブログ記事の生成、1つのコンテンツをブランドの語り口に沿って複数のアセットへ作り替える機能、大規模言語モデル(LLM)と従来の検索の両方を見たSEOの推奨などです。
このHubにはHubDBという表形式のデータベース機能も含まれています(使えるプランは変わることがあるので、最新は記事末尾の公式ページでご確認ください)。スプレッドシートのような表を1つ用意しておくと、その1行ごとにページが自動で作られる仕組みです。同じ形の情報がたくさん並ぶページ、たとえばメンバー紹介、セミナー一覧、拠点一覧、実績一覧に向いています。
私たちはメンバー詳細ページとセミナー詳細ページをこれで作っています。特にメンバー情報はサイト内のあちこちに出力されるので、表を1カ所直せば全部の掲載箇所が直る。ページを1枚ずつ追いかけて修正しなくてよくなるのが、いちばん効いている部分です。
社内に散らばったデータをHubSpotの顧客データへ集め、その品質を保つ部分を受け持ちます。かつてOperations Hubと呼ばれていた領域にあたります。ほかのHubと違って画面の向こうに顧客がいるわけではなく、裏方に近い性質を持っています。
受け持つ範囲は大きく3つです。
このあと1カ月目のところでお話しする「データの入り口のルール」を、人の手ではなく仕組みの側で守らせる場所、と捉えると位置づけが分かりやすいと思います。
正直に書くと、私たちがこのHubを使っているのは、Webサイト側との連携という形だけです。データ連携やデータ品質の機能を本格的に動かすところまでは行っていません。
HubSpotのAIは「Breeze」という名前でまとまっています。どれか特定のHubの機能ではありません。公式の言い方では「カスタマープラットフォーム全体を支えるAIエージェントと機能」。真ん中の顧客データの上に、Hubを横断して乗っている層だと考えてください。
中身は大きく2種類です。日々の作業を助けるアシスタントと、特定の仕事を任せるエージェント。エージェントには顧客対応、案件創出、データ整備といった役割があり、自分で組み立てるための機能も用意されています。
私たちはBreezeの機能のほうは使っていますが、エージェントを組んで運用するところまでは行っていません。
そして、この記事の主題とつながる話をひとつ。AIも、材料が揃ってからのほうが効きます。顧客データが薄く、ステージの定義も揺れている状態でエージェントを動かしても、根拠のない出力が並ぶだけです。あとで出てくるリードスコアリングの話と同じ理屈で、最初の3カ月にやるべきはデータの規律のほうです。Breezeは、その規律ができた土地の上で効きます。
ここまで5つのHubと、それらに乗るBreezeを見てきました。このほかに、収益に関わる領域を扱うRevenue Hub(旧Commerce Hub)と、AIエージェントを構築・管理するAgent Hubがあります。いずれも私たちは使っていないので、詳しくは公式の製品ページをご覧ください。
全部を契約する必要はありません。HubSpot担当者とMTGを重ねて必要なものを絞り込んでいきましょう。真ん中の顧客データは共通なので、後からHubを足しても、それまで貯めたデータはそのまま使えます。
真ん中に顧客データが1つある、という形と後から追加も可能という部分を押さえておけば、大丈夫です。
(本記事の製品名は2026年8月時点のものです。HubSpotの製品名や構成は変わることがあるので、最新の情報は記事末尾にまとめた公式ページでご確認ください。)
さて、HubSpotとはというお話が終わったので、最初の3カ月でやるべきことの本題に入っていきましょう。
導入初期の勝負どころは、データがどんなルールでHubSpotに入ってくるかを決められるかどうかです。
機能をいくつ使えるようになったかではないので注意してください。
HubSpotの導入は、顧客データの扱い方を、組織として決め直す作業でもあるのです。
同じ会社が表記ゆれで何件も登録され、商談ステージの読み方が人によってばらつき、ダッシュボードは誰も見ていない……。そんな状況は嫌ですよね。
こうなる前にルールを決めておくことが大切なのです。引っ越しの荷ほどきと同じで、箱を開ける前に「どの部屋に何を置くか」を決めていないと、あとで全部並べ直しになってしまいます。
お恥ずかしい話なのですが、私たち自身がこれをやりました。
運用を始めてしばらくして、ライフサイクルステージが未設定のままのコンタクトが溜まっていることに気づきました。作業用のビューを作って、全員で手分けして埋める作業が発生。
自分が担当になっている会社と人を一件ずつ開いて、ステージを直し、担当者を入れていく。まだAIを導入する前の話です。当然、半日で終わる作業ではありませんでした。
そのあとで作った運用ルールに、こんなタイトルのものがあります。
「スコアリング・ライフサイクルステージ・取引・リストを連携させて、マーケと営業が分断されないようにする」
タイトルそのものが、一度つまずいたあとで何を大事だと思ったかを表しています。機能の話ではなく、データがどう流れて誰と誰をつなぐか、という話です。
3カ月をどう区切るかの簡易的な全体図がこちらです。
1カ月目は、アカウントの初期設定とCRMの設計。データの入り口を整える時期です。
2カ月目は、営業の商談パイプラインづくり。人が実際に使う画面を作る時期です。
3カ月目は、計測をつないでレポートで答えられるようにする時期。フォームから商談、レポートまでを一本の線で結びます。
私たち自身がこの通りに進んだかというとそうではないのですが、そのお話は後半でふれさせてください。
また、着手前に目的、体制、自社と外部の切り分けを決めておきましょう。
まず最初に「速くしたい判断」を決めてください。
文章が長くなってもいいので、具体的に決めるのがポイントです。設定の取捨選択で迷わなくなります。
たとえば「今月の商談が先月より増えているか、金曜の朝に3分で分かるようにする」。
具体的であるほど、ある項目を作るべきか迷ったとき、「その判断に要るか?」と問えば、たいてい答えが出るようになります。
また、大きな経営方針を掲げる必要はありません。絞れるだけ絞ってください。
現状の業務フローを一度書き出して、「今、どこで時間がかかっているか」「どの情報がすぐ出てこないか」を洗い出すだけで、HubSpotに何をさせたいかが見えてきます。
機能を目標にするのはおすすめしません。際限がないですから。
判断目標だと、的がひとつに定まります。HubSpotのオンボーディングが目標を絞る設計になっているのも、おそらく同じ理屈だと思います。
次に体制を考えてください。
AIが何でもできる時代ではありますが、まずは人間が主体になる形での設計をおすすめしています。
HubSpotは、設計する人と、日々データを入力する人と、最終的に承認する人が必要と考えてください。
この役割を決めておくと、あとで「これ誰がやるんだっけ」で止まらずにすみます。
私たちの場合も、統括とツール管理をする人、メールマガジンを回す人、ダッシュボードを見る人、セミナー運営を担当する人、Webサイトを見る人、というふうに役割を分けて運用してきました。
誰がどこに責任を持つかをはっきりさせています。
このとき、CRMの実務は領域が広いことは覚えておいてください。一人でやろうとすると大変です。
各自にメインの役割を作りつつ、お互いの業務も理解して、時に手伝える体制にしておくと回りやすくなります。
設計した体制が動き始めると、社内でのデータの流通量が変わってきます。
私たちの社内でも、マーケティングの情報が行き交う量そのものが増えました。人が使う仕組みになった、ひとつの傍証だと思っています。
最後に、どこまで自分たちでやるかの切り分けをしましょう。費用の話もここに含まれます。
HubSpotの導入にかかるお金は、大きく分けて2つあります。
ツールそのものの利用料
初期設定を支援してもらう費用
後者には、HubSpot公式のオンボーディングと、Solutions Partner(HubSpotの導入支援を専門にする認定パートナー)による支援があります。
使い分けの目安はこうです。
社内に設定を進められる人がいて、判断の的も絞れているなら、公式オンボーディングで足ります。
一方、社内に手が足りない、あるいは絞られた目標の外側まで一緒に考えてほしい、という場合はパートナー支援が向いています。
金額は支援範囲によって幅があるので、まずは「何を自社でやり、何を任せたいか」を切り分けてから見積もりを取ると、比べやすくなります。
「データの規律」を誰が設計するかという部分を丸投げすると、あとで自社の言葉に直す手間がかかります。設計の思想は自社で持ち、手を動かす部分を借りる。私たちの経験ではこの切り分けが相性が良いと感じています。
それでは、3カ月間の実務に入っていきましょう。
まずは1カ月目。この期間のテーマは、データの入り口を整えることです。
基本設定をするとき、権限の設定にだけ注意しましょう。
最初に全員へ広めに権限を渡してしまうと、あとで「誰がこの設定を変えたのか分からない」という状態になりがちです。
最初は必要な範囲だけ渡して、足りなければ足す。順番はこちらのほうが安全です。
あとは、会社の基本設定を着々と進めていきましょう。会社情報、通貨、タイムゾーンなどですね。
1カ月目に必ず具体的な言葉にしておきたいのが、データの入り口をめぐる3つのルールです。
大事なのは、これを一度書いて終わりにしないことです。私たちの自社ルールも、導入から1年以上たっても更新を続けています。データの入り口のルールは、決めるものであると同時に、使いながら育てるものなのです。
HubSpotでは、コンタクト(人)にも会社にも、それぞれライフサイクルステージが付きます。
運用していると、この2つがずれます。同じ相手なのに、人のほうは「リード」で、会社のほうは「登録読者」になっている、という状態です。
私たちも実際にずれました。あとから決めたルールはこうです。
ステージの名前を決めるところまでは、多くの記事に書いてあります。けれど実際に運用を止めたのは、その次の「人と会社のどちらに合わせるか」のほう。ここまで決めておくと、あとの手作業メンテがずいぶん減ります。
自社がずれているかどうかは、そう時間をかけずに確かめられます。コンタクトの一覧をライフサイクルステージで絞り込んで、そのうち何件かについて、紐づいている会社側のステージを開いて見比べてみてください。10件も見れば傾向は分かります。ずれが1件も出なければ、すでにルールが効いているか、まだデータが少ないかのどちらかです。
もしずれが見つかったら、それはデータの不備ではありません。決めていないルールが1つある、というサインです。
最初の設計で全部を決めきろうと思わないでください。例外ルールは運用してから出てくるものです。
私たちが後から足したルールを3つ紹介しますね。
実際にデータが入ってきて、「これはどう扱うんだったか」と手が止まったものです。
特に2つ目は、メールを送っていい相手かどうかの線引きです。私たちは「打ち合わせや口頭で承認が取れている人」を基準にしました。ここは会社によって答えが変わるので、自社の言葉で決めるしかありません。
ルールを書く場所を決めて、迷ったら足していける状態にしておきましょう。
プロパティ(顧客情報を記録する入力項目)の設計は、多くの人が「何を集めようか」と足し算で考えますが、「そのプロパティを追加することで、どんな判断ができるようになるか」を軸に決めてください。
項目を増やすほどデータは豊かになる気がしますが、必須項目が多いほど入力率は下がります。
その項目でどんな判断ができるようになるかを、先に見越してから作ってください。見越せないなら、それはまだ作るタイミングではありません。
着手前に決めた「速くしたい判断」に立ち返って、その判断に効く項目だけを追加していきましょう。
運用を考えたとき、判断に効くかどうかで足していくほうが、結果的に使われるデータベースになります。
既存のCRMツールからの移行順序とルールも1カ月目で考えておきましょう。
「いきなり全部移さなくていい」ということは覚えておきたいですね。
過去のデータを一件残らず新しいシステムへ移そうとすると、移行だけで初月が終わります。しかも、古いデータほど表記が揺れていて、クレンジング(整え直し)の手間がかさみます。
まず、移す範囲を絞りましょう。直近1〜2年分と、いま進行中の案件。この2つに限れば、移行はぐっと軽くなります。
それより古いデータは、元のシステムやスプレッドシートに置いたままで構いません。倉庫にしまっておくイメージです。必要になったときに取り出せれば十分で、最初から全部を新居に運び込む必要はないのです。
全部移そうとする気持ちは分かります。捨てるようで惜しい。でも、使わないデータを運び込むほど、新しいデータベースは重く濁っていきます。移さない勇気が、きれいな入り口を守ります。
ちなみに、私たちが最初にHubSpotへ入れたデータは、代表が持っていた名刺の情報が中心でした。立派な顧客データベースを引き継いだわけではありません。
そこからマーケティングで少しずつ増やしてきました。どこまで増えたかは、この記事の後半で数字を出します。
出発点は小さくて構わない、というのが運用していての実感です。
移す範囲を決めたら、インポートの前に一度データを整えることをおすすめします。
事前に見ておきたいのは、次のようなところです。
私たちの場合は、会社名の名寄せに法人番号を使いました。表記が揺れていても法人番号が同じなら同一企業だと判断できるので、目視では拾いきれない重複をまとめて整理できます。BtoBで法人データを扱うなら、この一手はかなり効きます。
2カ月目は商談のパイプライン作りに移ります。テーマは、営業と同じ言葉を話せるようにすることです。
パイプラインとは、商談がどの段階まで進んでいるかの順を追ったものです。
この段階の名前づけを、作る側の都合で決めてしまうと、現場の人が入力に迷います。
画面の項目が、日々の仕事で使っている言葉とずれているからです。
パイプラインのステージ名の付け方には、コツがあります。
「状態」で名づけるより、「完了した行動」で名づけることです。
たとえば「検討中」というステージ名。一見わかりやすいのですが、いざ入力しようとすると「これは検討中なのか、それとも次の段階なのか」と手が止まります。状態は、見る人によって解釈が分かれるからです。
これを「見積提出済み」に変えると、迷いが消えます。見積を出したか出していないかは、事実として一つに決まるからです。ステージを、判断ではなく事実で切る。こうするだけで、入力のばらつきが減り、パイプラインの数字が信じられるものになっていきます。
パイプラインステージの設計でも項目の引き算をしましょう。1カ月目のプロパティ設計と同じ考え方で、判断に使わない項目は作らない方が好ましいです。
商談の画面は、営業が毎日開くところです。ここに要らない項目が並んでいると、入力が止まります。入力が止まれば、3カ月目に作るレポートの数字が痩せます。同じルールが、場所を変えてもう一度効いてきます。
画面の言葉を現場の言葉に合わせるすり合わせ自体が、導入作業のいちばんの本体とも言えますね。
3カ月目はデータの出口の実装です。
フォームからの問い合わせがコンタクトになり、商談になり、その流れがレポートで見える。
この最小限のファネル(見込み客が顧客に近づいていく流れ)が1本通っていれば、導入初期としては十分だと思います。
レポートやダッシュボードは、作ろうと思えばいくらでも作れます。役職ごと、チームごとに量産したくなる誘惑があります。
最初は1枚に絞るくらいの意気込みで設計しましょう。着手前に決めた「速くしたい判断」、その1つに答えるためのダッシュボードがあれば十分です。
たくさん並べたダッシュボードは、見た目は立派でも、結局どれも見なくなります。
毎朝必ず開く1枚のほうが、10枚の飾りよりずっと役に立ちます。
ちなみに私たちは、自社マーケティングの数字を見るためのダッシュボードをHubSpotの外に作りました。その結果、HubSpotで完結するWebやメールマガジンまわりのダッシュボードは開かなくなりました。
データを毎日触る場所に、ダッシュボードがあるかどうかが使用頻度の差になります。
ダッシュボードは、きれいに作れる場所ではなく、毎日開く場所に置いてください。
3カ月経過したら「どの判断が速くなったか」を振り返りましょう。
売上を見たくなりますが、3カ月で売上が動くことはまれですし、動いたとしてもHubSpotのおかげとは言い切れません。
たとえば、リード数の集計です。
判断のためにかかる時間や手間が少なくなったかどうかを見てください。
一般的なお話を私たちの少し苦い体験談と共に書いてきました。
失敗談が示す通り、私たちはこの通りには進めませんでした。
営業活動をCRMで管理したい企業では、まず営業活動の管理から始めて、次にマーケティングでリードを増やしていく順番になることが多いようです。営業の商談がすでに動いているなら、そこを可視化するほうが早く効くからです。
私たちは逆でした。2024年10月にオンボーディングを始めて、翌11月にはメールマガジンを配信しています。つまり最初の3カ月でやったのは、Marketing Hubを使ったマーケティング活動のほうでした。営業の記録をSales Hubに移したのは翌年2月、導入からおよそ5カ月目です。それまではNotionで営業活動を記録していました。
順番を追うと、こうなります。
全部を同時に始めず、使う範囲を少しずつ広げていった結果こうなりました。
多少の失敗はしましたが、私たちに不足している部分から始めたことに後悔はありません。
何が足りていないかは会社によって違いますし、速くしたい判断もそれぞれです。順番に唯一の正解はないとも言えますね。
すでに商談が積み上がっているなら営業側から、これから見込み客を増やす段階ならマーケティング側から。自社がどちらの状態にあるかで、始め方も変わるということです。
1年経過時点、2025年12月の数字です。
商談も数件生まれています。
私たちの現在地は、リードを獲得するところまでは形になり、育てるところはこれから作る、という段階です。
ここまでやることを話してきましたが、あえてやらないことについてもお話させてください。
導入初期のつまずきは、やるべきことの漏れよりも、やらなくていいことへの深入りで起きます。
最初から全部門で使い始めると、ルールの周知だけで初月が終わります。まず1チームで小さく回して、型ができてから広げてください。
先に型を作っておくと、次のチームには「こう決めてある」と渡せます。何もない状態から全員で議論を始めるより、ずっと速く進みます。
ワークフローは、誰が見ても定型だと分かる処理、たとえば問い合わせが来たら担当者に通知する、といった迷う余地がないものから作りましょう。
一方で、「これも自動化したら楽かも」と思いついた追加の自動化は、少し待ってください。
目安は、手作業で3回ほどやってみて、それでも面倒だと確信してからです。
手を動かす前に自動化を組むと、実際の運用とずれた仕組みができあがり、あとで直す手間のほうが大きくなります。明らかなものは即、迷うものは3回やってから。この使い分けが効きます。
私たちの場合はこうでした。
さきほど書いたステージの埋め直しは、まず全員の手作業でやりました。
そのうえで、次の定例で「これはワークフローで自動化できないか」と相談しています。
今は自動で更新されるようになりました。
ワークフローは作れる幅が広いわりに、私たちが使い続けているのは決まったものだけです。凝ったものを組む前に、毎日動くものを1つ作るほうが、効率化につながります。
リードスコアリング(見込み客の有望度を点数化する仕組み)も、初期には組まないことをおすすめします。
スコアの元になる行動データが、まだ貯まっていないからです。
誰がどのメールを開き、どのページを見たか。そうした記録が積み上がって初めて、点数に意味が出ます。データがない時期に点数をつけても、根拠のない数字が並ぶだけです。
私たち自身、スコアリングを含むナーチャリングの設計は、半年経過したところでHubSpotの専門家に相談しながら実装しました。
最後に、私たちが作ったのに使わなかったものをご紹介します。
書いていて恥ずかしいのですが、こういった失敗談がいちばん役に立つ話かもしれません。
どれも「作れるから作った」ものです。HubSpotは機能が多いので、触っているとつい作れてしまいます。作ること自体は簡単ですし、正直、楽しくもあります。
使われるかどうかを分けるのは、機能の出来ではありません。それを開く理由が、日々の仕事の中にあるかどうかです。
最初の3カ月は、作れるものを増やす時期ではなく、毎日開くものを1つ作る時期だと考えてください。
最後に、HubSpot導入前によく受ける質問をお話させてください。
公式オンボーディングは多くの場合およそ3カ月が目安です。ただしこれは優先度の高い目標を達成するまでの期間で、活用を広げていくのはその後も続きます。私たちは1年かけて範囲を広げました。
オンボーディングが完了すると、担当はカスタマーサクセスの側へ引き継がれます。ただ、絞られた目標の外側については、自分たちで順番を決めていくことになります。この記事はまさにその部分を扱っています。
いいえ。必要なHubから始めて構いません。真ん中の顧客データは共通なので、後からHubを足しても、それまで貯めたデータはそのまま使えます。私たちもMarketing Hubから始めて、少しずつ広げました。
使えます。BtoB専用というのもよくある誤解です。向き不向きを決めるのは業種ではなく、ビジネスモデルのほうです。検討期間が長い、問い合わせや資料請求のような中間の接点がある、マーケと営業と顧客サポートが連携する必要がある。こうした条件に当てはまるなら、BtoCでも十分に機能します。不動産、リフォーム、教育、サブスク型のサービスなどが分かりやすい例です。
逆に、広告から即購入までWebで完結して、購入後の関係管理がほとんど要らないモデルには、あまり向きません。
設定を進められる人がいて、何を速くしたいかが決まっていれば、社内だけでも十分可能です。迷いどころは初期設計なので、そこだけ外部に相談する、という使い方もあります。
いいえ。直近1〜2年分と進行中の案件だけで構いません。古いデータは元のシステムに残しておき、必要になったら参照すれば足ります。全部移そうとすると移行だけで初月が終わります。
やるべきことの漏れではなく、やらなくていいことへの深入りです。全部門への一斉展開、過去データの完全移行、凝ったダッシュボードの量産。この3つが初期のつまずきの大半を占めます。
HubSpot導入の最初の3カ月にやるべきことを一言で言うと、「データの規律を決めて、速くしたい判断を1つに絞り、やらないことを決める」になります。
機能の習得は、後からいくらでも追いつけます。けれど、最初の3カ月で崩れたデータの規律を後から立て直すのは、本当に手間がかかります。回り道に見えるルール決めこそが、実は導入の最短ルートなのです。
この記事では一般的に言われているお話と私たちの失敗談をお話してきましたが、導入3カ月の順番に唯一の正解はありません。
私たち自身、まず何を解決したいかを決めて、そこから徐々に使う範囲を広げてきました。
まず今日できることをひとつ挙げるなら、「速くしたい判断」を1つ、社内で書き出してみてください。会議も見積もりも要りません。15分あれば書けます。それが決まっていれば、どのHubのどの機能を使いたいのか、何から設定すべきなのかは自然に決まっていきます。
手を動かす段階で詰まったときは、ご相談もお受けしています。
ライフサイクルステージやパイプラインの組み直し、営業とマーケのあいだの引き渡しルールづくりといった、この記事で触れた部分をそのまま扱っています。30分の無料壁打ちも可能ですし、メールでのお問い合わせも承っております。
私たちがHubSpotを自社導入して1年でどんな変化があったのかは、セミナーのアーカイブでより詳しくお話ししています。導入した背景から、実際の使い方、チームの分担まで扱っています。
(2025年12月開催・アーカイブ視聴可)
アーカイブ視聴申し込みページ HubSpot自社導入1年のデータ分析会社が語る CRMの実践と学び&チームづくり
※ セミナーアーカイブ視聴にはお申し込みが必要です。メールアドレスをご登録いただくと、動画のURLをお送りします。
ほとんど使われていなかったWebサイトをリニューアルしたお話も、2026年6月のセミナーで扱っています。
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