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データ基盤

なぜデータ基盤を作ってもマーケティング成果につながらないのか

大竹 桐矢 執筆/大竹 桐矢

データ基盤を作り、複数のシステムからデータを集めた。ダッシュボードも見られるようになった。それでも、施策の決め方も成果も、基盤を作る前と変わっていない。

データ基盤が成果につながらない原因は、3つに分かれます。

  1. 何を判断するかが決まっていない
  2. 判断に使える数字が出ていない
  3. 数字を見て施策を決める運用がない

このうち、見落とされやすいのが2つ目です。数字が定義どおりに計算されているか確かめられず、過去と同じ条件で比べられなければ、施策の判断には使えません。

この記事では、3つの原因を整理したうえで、数字を判断に使える状態にする設計と、整ったあとの変化を、商談数の例で説明します。

データ基盤が成果につながらない原因は、目的・数字・運用の3つに分かれる

データが成果につながるまでには、数字を見て判断し、施策を変え、その結果を測り直す流れがあります。基盤を作っても成果が変わらないときは、この流れのどこかが切れています。

  • 目的: 何を判断するために数字を見るのかが決まっていない。見たい数字が決まらないまま、取れるデータを集めている
  • 数字: 判断に使える数字が出ていない。数字が定義どおりに計算されているか確かめられず、過去と同じ条件で比べられない
  • 運用: 数字を見て施策を決め、結果を測り直す場や担当がない。レポートは毎月出るが、報告で終わっている

目的と運用については、多くの記事で語られています。目的から基盤を設計する進め方は、小さく始めるならどこから?データ基盤の役割と必要になるタイミングで紹介しています。

一方、数字については「定義を統一する」の一言で済まされがちです。目的が決まり、会議の場があっても、出てきた数字を信じて比べられなければ、判断は先送りになります。この記事では、この数字の側を具体的に見ていきます。

見落とされやすいのは、数字が判断に使える状態かどうか

データを一カ所に集めると、取り出す場所は分かりやすくなります。ただし、その数字がどの条件で作られ、以前と同じ意味で比べられるかは、別に確かめる必要があります。ここでは、数字が判断に使えなくなる3つの場面を商談数とキャンペーン区分の例で説明し、最後に実際の案件の例を紹介します。

出てきた数字が、定義どおりに計算されているか確かめられない

例えば、月次の商談数を「当月に商談化した案件を、1案件につき1件として数える」と決めているとします。定義書にはそう書かれていても、シートの中では、別のシートから値を参照し、対象外の行を外し、日付を整えて集計しているかもしれません。

その加工をたどれなければ、商談化した日を使っているのか、案件を登録した日を使っているのかも確認できません。定義は分かっているのに、出てきた数字が定義どおりなのかを説明できない状態です。

定義書には「当月に商談化した案件を、1案件につき1件として数える」と書いてあるが、シートの中では別のシートからの参照、対象外の行の除外、日付の整形を経て商談数を集計している図。加工をたどれないと、商談化した日と案件を登録した日のどちらで数えたか説明できない

加工が分散すると、修正する場所や影響先が分からなくなる

指標の条件を変えたいときには、処理を追えない問題がさらに大きくなります。同じ商談数を複数のレポートで使っていると、どの式を直し、どの出力を確認すべきかを調べ直すことになるためです。

あるシートだけ変更して、別のレポートには古い条件が残ることも考えられます。加工の途中で手作業が入っていれば、数式を読めても全体の計算は分かりません。

商談数を営業部の週次シート、マーケティング部の月次レポート、経営会議の資料でそれぞれ計算している図。対象外の案件の条件を変えたとき、新しい条件に直したのは1つだけで、残り2つは古い条件のまま。同じ商談数なのに資料ごとに食い違い、どこを直すかを一つずつ調べることになる

スプレッドシートでも、扱う範囲が限られ、参照先や変更を管理できていれば対応できます。難しくなるのは、処理や利用者が増え、作成者に聞かなければ直せない状態が続く場合です。保存先をデータ基盤に移しても、加工の中身と影響先を整理しなければ、この難しさは残ります。

変更理由が残っていなければ、後任はその処理が意図的な例外なのか、修正漏れなのかも判断できません。条件を変えるたびに数字の確認からやり直すことになり、施策の検討まで進めなくなります。

既存のレポートと新しいBIで数字が合わないときに、どの工程で差が出たかを調べる手順は、BIの数字が合わない原因は? 既存レポートとの差を特定する調査手順で紹介しています。

過去の数字と、同じ条件で比べられない

キャンペーンや顧客区分など、データを分類・比較するための情報をディメンションと呼びます。この値が変わると、過去の数字の見え方まで変わる場合があります。

仮に、あるキャンペーンを当初は「新規獲得」に分類し、後から「既存顧客向け」に変更したとします。過去の商談データに現在のキャンペーンマスターを結びつけると、以前の商談まで「既存顧客向け」として集計されることがあります。

商談自体が増減したわけではなく、分類に使った値が変わったのです。当時の区分が残っていなければ、以前のレポートと同じ条件では比べられません。この問題は、元データに商談が正しく記録されていても起こります。

キャンペーンAの区分を「新規獲得」から「既存顧客向け」に変えた仮の例。当時の区分で集計すると変更前の商談は新規獲得に入るが、現在の区分を結びつけると変更前の商談まで既存顧客向けに集計され、新規獲得の商談が減ったように見える。商談そのものは変わっていない

キャンペーン別の商談数が減ったとき、分類の変更によるものか、同じ条件で集計しても減っているのかが分からなければ、予算を動かす判断はしづらくなります。

顧客の売上高をいつ時点の値で使うかが決まっていなかった例

私が関わった案件では、顧客企業の売上高を規模の目安にして、担当部署の割り当てや、マーケティング施策の対象にするかどうかの判定に使っていました。売上高は決算ごとに変わりますが、判定にいつ時点の値を使うかは決まっていませんでした。

判定の基準となる金額の前後にいる企業は、決算をまたぐと、同じ企業でも対象になったり外れたりします。経営向けに規模を把握するなら、最新の値で問題ありません。一方、現場で対象を判定し、その結果を後から振り返るには、判定した時点の値が必要です。どちらの値を使うかが決まっていなければ、現場は判断に迷い、過去と比べるときも、当時と現在のどちらの値で判定した数字かを確かめなければなりません。

ある顧客企業の売上高が、前期の決算では判定の基準を上回って対象、今期の決算では下回って対象外になる図。経営向けにいまの規模を把握するなら最新の値、現場の対象判定を後から振り返るなら判定した時点の値を使う。何を判断するかで使う時点が決まる

この案件では、ほかの判定条件も重なっていたため、数字を何の判断に使うかを先に分け、それぞれどの時点の値を参照するかを決める必要がありました。経営と現場で定義が違うこと自体は、それぞれの目的に合っていれば問題ありません。使う数字の時点は、何を判断するかが決まって初めて決まります。

判断に使える数字にするために、データ基盤で設計すること

数字を判断に使える状態にするには、データを集めるだけでなく、どの定義で、どの処理を通り、いつの状態で集計したかを追えるように設計する必要があります。データ基盤の構築を社内の担当者や外部の会社に任せる場合も、次の4つが設計に入っているかを確認してください。

月次の商談数が元データ、加工、集計を経てシートやBIに出るまでの流れに、4つの設計を重ねた図。流れ全体では参照元・出力先・条件を記録してたどれるようにし、元データでは定義を項目に対応づけ、加工では変更前の値と適用日を残し、集計では共通の処理で作って変更を記録する

指標の定義を、使う項目と計算条件に対応づける

月次の商談数なら、「どの案件を」「どの日付で」「何件と数えるか」を、実際に取得する項目へ対応づけます。1案件を1件として数えるなら、案件を識別するIDで重複を確認します。当月に商談化した案件を対象にするなら、商談化した日で対象期間を判定します。

定義で決めること データ・処理への対応例
1案件を1件として数える 案件を識別するIDで重複を確認する
当月に商談化した案件を対象にする 商談化した日を使って対象期間を判定する
対象外の案件を除く 除外理由に対応する項目と条件を定める

商談化した日に当たる項目がなければ、案件の登録日で代用する前に業務側へ確認します。取得しやすい日付が、定義に必要な日付とは限らないためです。必要な日付や区分を取得していなければ、まず取得・計測から見直します。

元データから出力までの流れを、たどれるようにする

商談数なら、案件の記録を取得し、重複や対象外の扱いを決め、キャンペーン情報を結びつけ、月次で集計してBIへ渡す、といった処理があります。それぞれの処理について、参照元と出力先、適用している条件を記録します。

処理の順序が分かれば、出力された数字から元データまで戻って確認できます。定義を変える際も、どの処理とレポートに影響するかを調べる手がかりになります。

この整理には、シート上の式を移すだけでなく、手作業で補っていた判断を確認することも含まれます。空欄の行を除外する処理なら、除外する業務上の理由を残します。以前のシートに同じ式があったというだけでは、いまの定義に必要な条件かは分かりません。

先ほどの売上高の案件では、経営向けの数字と、現場の対象判定に使う数字を分け、それぞれ用途に合う定義で扱う方針で進めました。現場の指標にも、経営上の成果とのつながりを持たせます。定義を移すには、複雑になっていた判定条件を整理する必要がありました。データ基盤上で既存の判定ロジックをたどれたため、移行を進めやすいケースでした。

変更前の値と、いつから適用するかを残す

キャンペーン区分の例では、最新の値で上書きするだけでなく、変更前の区分と、いつのデータに適用する値なのかを残します。

当時の施策を振り返りたいなら、当時のデータに適用していた区分で集計します。現在の区分で過去を比べたいなら、現在の区分で集計し直します。どちらも業務上必要になり得るため、レポートには、どちらの条件で集計したかの明記が欠かせません。

履歴は、取り始めた日からしか残りません。取得していない過去の状態は、後から保存先を変えても復元できないので、振り返りに使う区分は早めに残し始めます。

同じ指標は共通の処理で作り、変更を記録する

同じ指標をレポートごとに計算すると、変更を反映する場所も増えます。共通の処理で作った数字をシートやBIへ渡せば、同じ計算を各所に持たせずに済みます。

その数字が定義どおりかは、重複する案件や、対象期間の境界にある案件などの確認用データで照合します。計算ルールを変更したら、変更前後の結果と影響するレポートを確認し、変更の理由と適用を始めた日を記録します。担当者が変わっても、前後の数字の差をどの変更と照らせばよいかが分かります。

数字が整うと、施策の判断と成果の測り方が変わる

ここまでの設計で、数字を確かめる手間が減り、過去と同じ条件で比べられるようになります。数字の確認に使っていた時間を施策の検討に回し、施策を変えた結果を同じ物差しで測り直せるようになります。

数字の確認ではなく、施策の検討に時間を使える

整備前の商談数では、確認のたびに参照先を探し、作成者に聞き、加工の途中を調べる必要がありました。定義と処理を対応づけておけば、まず確認する項目と計算条件を参照できます。

担当者が交代しても、定義、使う項目、処理の意図、出力先を一緒に確認できます。会議で「この数字は合っているのか」を議論する時間が減り、数字を見て何をするかの議論に進めます。

同じ条件で比べて、続ける施策と見直す施策を決められる

区分変更前の状態を残していれば、先ほどのキャンペーンを当時の「新規獲得」に分類して集計できます。以前のレポートと同じ期間・分類条件で照合できるため、分類変更による差を、商談の増減と混同しにくくなります。

キャンペーン別の商談数が減ったときも、まず数字の作られ方による差を整理し、そのうえで同じ条件でも減っているキャンペーンを、見直しの候補として調べられます。対象となる顧客や案件の中身を確かめ、継続する施策、予算を減らす施策を決めます。

仮に、あるキャンペーンの商談数が前期より減ったため、予算を減らす案が出ていたとします。ところが当時の区分で集計し直すと、分類変更による差を除けば、商談数は減っていませんでした。この場合、予算を減らす理由はなくなり、別の課題を調べることになります。数字の作られ方を確かめないまま決めていれば、成果を出していた施策の予算を削っていたかもしれません。

あるキャンペーンの商談数の仮の例。分類の変更がまざった集計では前期より減って見え、予算を減らす案が出る。当時の区分で集計し直すと前期と変わらず、予算は減らさずに別の課題を調べる判断になる

施策を変えた結果を、同じ基準で測り直せる

施策を変えたら、その前後を同じ定義・同じ分類で比べて、効果を確かめます。定義や区分が途中で変わっていれば、変更日と変更内容の記録をもとに、前後の数字の差が施策によるものか、集計条件によるものかを切り分けます。

同じ条件で比べられたとしても、件数の増減だけで施策の効果までは決まりません。受注につながったか、どのような顧客を獲得したかも、判断の目的に応じて確かめます。こうして測り直した結果が、次の判断の材料になります。成果につながるのは、この判断と測り直しを繰り返せる状態です。

よくある質問

数字を判断に使える状態にする際に、よくいただく質問をまとめました。

新しいレポートを追加するときも同じ計算を作り直す必要がありますか

共通の集計処理があれば、作り直さずに済みます。新しいレポートを追加する場合も、既存の集計処理を使う範囲と、表示側で絞り込む範囲を決められます。利用者が増えた後の確認先も揃えやすくなります。

ただし、共通化するのは同じ意味で使う指標です。用途が異なる指標は、名前と定義を区別して提供します。

区分の履歴は日次で保存しておけば十分ですか

再現したい範囲によります。日次で保存する場合、その間に変わって元に戻った値まで残るとは限りません。

また、いつ取得したかと、業務上いつからその区分が有効かは別の情報です。必要な履歴の細かさを決め、取得方法と頻度も合わせます。

過去のレポートを再現するには区分の履歴だけ残せばよいですか

区分だけでは足りない場合があります。過去の出力を同じ条件で再現するには、区分に加え、使った元データと計算ルールも同じ条件で取り出せるようにしておきます。元データに訂正が入った場合も、処理の変更と分けて追えるようにします。

変更前の値を残す仕組みにはどのようなものがありますか

変更前後の値と有効な期間をあわせて管理する方法が代表的です。データウェアハウスの設計では、こうした扱いを「Slowly Changing Dimensions」と呼びます。元データの状態を残す仕組みとしては、データの加工を管理するツールのdbtにも、変更を記録するスナップショット機能があります。

どの仕組みでも、取得していない過去の状態は後から復元できません。振り返りに使う区分は、早めに残し始めます。

前に見た数字と違ったらどちらかが間違っているのですか

そうとは限りません。計測や加工の不備による差もあれば、定義・対象範囲・集計時点の違いによる差もあります。

まず、それぞれの数字をどの条件で出したかを確かめ、不備による差と条件の違いによる差を区別します。差が出た工程の調べ方は、BIの数字が合わない原因は? 既存レポートとの差を特定する調査手順で紹介しています。

データ基盤を成果につなげるには、判断に使える数字を設計し、施策の判断に使い続ける

データ基盤を作っても成果につながらない原因は、目的・数字・運用の3つに分かれます。このうち見落とされやすいのが、数字が判断に使える状態かどうかです。定義どおりに計算されているか確かめられず、過去と同じ条件で比べられなければ、目的と会議の場があっても判断は進みません。

成果につなげるには、次の3つを順に確かめてください。

  • 何を判断するために、どの数字を見るかが決まっているか
  • その数字が定義どおりに計算され、過去と同じ条件で比べられるように設計されているか
  • 数字を見て施策を決め、変えた結果を同じ物差しで測り直しているか

どこから始めるか迷うなら、会議で数字の確認に時間がかかっている指標を1つ選んでください。その指標を何の判断に使うのか、いつ時点の値で比べるのかを、業務の担当者とデータの担当者で確かめるところから始められます。

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