AIに「今月のリードと商談の数をまとめて」と頼むと、答えはすぐに返ってきます。ところが、経営と現場で数字が合わない、先月と数え方が違う。結局、人が集計し直すことになった経験はないでしょうか。
自社固有の顧客や商談を分析するとき、AIが根拠にできるのは、参照できる記録と説明です。HubSpotの2026年秋の発表でも、AIの活用には顧客や業務のコンテキストが重要だと示されました。ただし、コンテキストの材料となるデータは、CRMに入る前の段階ですでに欠けたり、つながらなかったりすることがあります。
この記事では、データがCRMに入るまでの4つの段階を点検し、最後にAIの答えを検算する方法を紹介します。
- 記録:作成するレポートや集計に必要な行動が、計測されているか
- 同意:同意状況によって計測範囲や記録・推定のされ方が異なる前提を、把握しているか
- 連携:広告から商談までを、同じ人の行動としてつなげられるか
- 定義:数え方と除外条件が、文書になっているか
- 検算:AIの答えを、人が同じ手順で出し直せるか
最初からすべてを整える必要はありません。まず、AIで作成するレポートや集計を1つ決め、必要なデータから点検しましょう。
※この記事でいうCRMは、HubSpotのように顧客・商談・問い合わせの記録をまとめる仕組みを指します。
CRMに入る前のデータが、AIの答えを左右する
CRMには、営業・広告・マーケティングなど複数の部門やツールからデータが集まります。ところが、同じ「問い合わせ」でも、ツールによって数え始める時点や重複の扱いが違えば、数字はそろいません。CRMの中を整えるだけでは、入力前に欠けた情報や、ツール間でつながらなかった行動までは補えないのです。
たとえば、ある支援先では、経営陣は会計側の予実データを、マーケティングと営業はHubSpotのデータを見ていました。受注前か受注後か、分類の軸は何かが異なり、同じ数字として比べられませんでした。
2つのダッシュボードを突き合わせ、経営陣の分類軸に合わせて1枚にまとめました。受注額の確定を待つとマーケティングと営業の活動に間に合わないため、会議ではHubSpot上のおおよその数字を使い、業種など顧客属性別の数字はAIで集計して参考値として添えました。用途に応じて数字の精度や分類軸を決めた事例です。

データがCRMに入るまでに、欠けたり、つながらなかったりする場面は、次の4つです。

- 記録で落ちる:計測していない行動、二重に数えている行動
- 同意で変わる:同意状況によって計測範囲や記録・推定のされ方が異なる行動
- 連携で落ちる:ツール間でつながらず、顧客の流れとして追えない行動
- 定義で落ちる:数え方がそろわず、比べられない数字
CRM内の重複・欠損・入力ルールを整えることも大切ですが、ここではCRMに入るまでの4段階と、最後の検算に絞って説明します。
1. 記録:取れていないデータは、AIも使えない
記録しなかった過去の行動は、あとから設定を直しても戻りません。AIに過去と比べさせたいなら、比較に必要な記録をいまから取り始める必要があります。
計測の仕組みが入っていることと、欲しいデータが取れていることは別です。レポートや集計に必要な行動(フォーム送信、資料ダウンロード、商談化など)を書き出し、それぞれが実際に記録されているかを確かめましょう。GA4のイベント数とHubSpotのフォーム送信数のように、同じ行動を別のツールで数えた件数を比べると、未計測や二重計測に気づけます。
計測を代理店に任せている場合は、次の点を確認してください。
- 計測しているイベントの一覧と、それぞれが数える行動
- フォーム送信や資料ダウンロードを、複数のツールで数えているか
- 同じ行動を二重に数える設定になっていないか
月曜日のトラでは、自社サイトのGA4をAIと一緒に分析するプログラム「スーパーアクセス解析」を無料で公開しています。分析前に、GA4とGoogleタグマネージャー(GTM)の計測を機械で34項目、目視で19項目点検する仕組みを組み込みました。
計測の設定を直す前のデータは、さかのぼって記録できません。どこから記録を整えるか、データ基盤がいつ必要になるかは「小さく始めるならどこから?データ基盤の役割と必要になるタイミング」で紹介しています。
2. 同意:同意状況で、AIに使えるデータの範囲が変わる
Cookieに同意しなかった人の行動は、CMP(Cookieの同意を管理するツール)や計測ツールの設定によって、記録されない場合や、推定で補われる場合があります。Web行動の数字は、訪問者全員の行動をそのまま表すとは限りません。
AIにWeb行動の分析を任せるときは、データの対象範囲、同意状況による制約、推定データを含むかを説明に書きましょう。データで確かめられていない範囲を、訪問者全員の傾向として言い切らないよう指示します。
設定が分からない場合は、CMPを導入した担当者に次の点を確認してください。
- 同意しなかった人の行動を、GA4とHubSpotがそれぞれどう扱う設定か
- CMPを導入した日と、設定を変更した日
同意状況によってGA4のデータがどう変わるかは「CMP(Cookie同意管理)ツール導入でGA4のデータはどう変わる?」で詳しく説明しています。
3. 連携:ツールがつながっていないと、顧客の流れを追えない
広告の管理画面、GA4、MA(マーケティングオートメーション)、SFA(営業支援システム)にデータがあっても、同じ人の行動だと分かる手がかりがなければ、「この広告から何件の商談が生まれたか」には答えられません。
つなぐ手がかりになるのは、フォームのメールアドレス、広告クリック時の識別子(クリックID)、HubSpotが見込み客に割り当てるコンタクトIDなどです。どのツールのどの項目でつなぐかを決めれば、データを一か所に移さなくても、広告から商談までを追える場合があります。

具体的な手順は「この広告からどれだけ商談化したのかを知りたい!GA4とMAとSFAの繋げ方」にまとめています。
月曜日のトラでは、メルマガやセミナーの結果をHubSpotから取り出し、NotionやSlackにも共有しています。基本データはBigQueryにつなぎ、AIが読み取れるレポートにしています。CRMの中だけで完結させず、結果を普段の仕事の場所に流し、分析に必要なデータをAIが読める形でつないでおく方法です。
4. 定義:数え方を決めないと、AIの答えは変わる
社内独自の数え方は、AIだけでは分かりません。数え方と除外条件を定義書にまとめ、分析のたびにAIに読み込ませれば、定義書に沿った集計ができます。
BtoBtoCの事業会社を支援したとき、BtoC側の販促活動がサイト流入に大きく影響し、スマートフォンからの流入やbotの流入によってCVR(コンバージョン率)が変動していました。ところが、AIに「レポートを作成して」とだけ頼むと、bot流入をどう扱うかなどの定義が依頼ごとに変わってしまいました。
そこで、数え方と除外の定義をファイルにし、毎回AIに読み込ませるようにしました。ファイルは役割ごとに分けています。
- 数え方の定義:成果の分母・分子に何を含めるか。除外条件は何か
- データの取り方:どのツールから、どの条件で数字を取り出すか
- 計測の設計:どのイベントで何を数えているか
- AIへの指示書:分析前に3種類の資料を読む順番
初めて作るなら、数え方の定義から始めましょう。毎回ゼロから説明する代わりに同じファイルを渡せば、AIへの説明し直しも減らせます。
月曜日のトラでは、HubSpotのプロパティ(項目)の一覧と命名規則も、AIに項目の意味を伝える資料として役立っています。項目名、意味、入る値、命名規則、使い道が文書になっていれば、AIもどの項目を使うか判断しやすくなります。


業務で使う数字の定義をどう決めるかは「BIの数字が合わない原因は? 既存レポートとの差を特定する調査手順」も参考にしてください。
AIの答えを、人が検算できるようにする
4つの段階を整えても、AIの答えが正しいかどうかは人が確かめる必要があります。レポートには、あとから同じ手順をたどれる情報を残しましょう。
支援先では、AIが作るレポートに次の3点を必ず記載するルールにしています。
- データを取り出したツールと、集計対象の期間
- 取り出した条件(項目と絞り込み)および除外条件
- 合計、桁、重複などの点検結果
レポートをAIで作成する際は、次の一文を加えられます。
レポートの冒頭に、データを取り出したツール、集計対象期間、取り出した条件、除外条件、数字の点検結果を書いてください。
月曜日のトラでは、AI利用ガイドラインで、調査・分析レポートについて次のことを決めています。
- 書いた人が内容を自分で理解しておく
- AIのコメントをそのまま貼らない
- 数字や事実が合っているかを確かめる
- 根拠と前提を、あとから分かる形で残す
- 最後は人が確かめる
最初にAIで作るレポート1本に必要なデータを点検する
たとえば、月次のリード数と商談数のレポートをAIで作るなら、必要なデータについて次の項目を確かめます。
| 点検するところ | 確認すること | 確かめ方 | 誰に確かめるか |
|---|---|---|---|
| 記録 | 必要な行動が記録され、二重に数えていないか | 同じ行動を別ツールで数えた件数を比べる | 計測を設定した代理店、社内担当 |
| 同意 | 計測範囲や記録・推定の有無が分かっているか | CMP・計測ツールの設定と導入日を確認する | CMPの導入担当、情報システム担当 |
| 連携 | 広告から問い合わせ・商談までを共通IDでつなげるか | 1件の商談を選び、最初の接点までさかのぼる | CRM管理者、広告運用担当 |
| 定義 | 数え方と除外条件が文書になっているか | 定義ファイルを作り、AIに読み込ませる | 営業・マーケティングの責任者 |
| 検算 | AIの数字を人が出し直せるか | 出どころと条件を残し、数字を1つ手で出し直す | レポートを受け取る担当者 |
確認できなかった項目が、AIでレポートを作る前に整える箇所です。一度にすべてを直すのではなく、レポートの精度に影響する項目から手を付けましょう。
点検の多くは担当者ができますが、担当者だけでは決められないこともあります。どのレポートや集計をAIで作るか、経営と現場で数字の分類軸が違うときにどちらを使うかは、関係者で決める必要があります。
売上目標から逆算して、どの段階の数字を追うかを決める考え方は「中小企業はTHE MODELをどう取り入れる?」で紹介しています。
よくある質問
本記事でご紹介した内容を実施するにあたって、よくある質問をご紹介します。
AIで最初に作るレポートは何を選べばよいですか
月次のリード数や商談数など、毎月同じ形で作っている集計から始めるのがおすすめです。前月と比べやすく、人が数字を出し直して検算できます。
HubSpotのBreezeアシスタントを使う場合も、4つの段階と検算は必要ですか
必要です。CRM内の情報をAIが参照できても、Web行動の計測、Cookieの同意、ツール間の連携、社内の数え方まで自動でそろうとは限りません。AIに分析させる内容に応じて、4段階と検算を確認しましょう。
経営と現場で見ている数字が違うときはどちらに合わせればよいですか
まず、それぞれの数字の定義(受注前か受注後か、何で分類しているか)を書き出します。そのうえで、AIにどちらの定義で集計させるかを決めましょう。必要であれば、一方を基本の数字にして、もう一方を参考値として添える方法もあります。
AIが参照する定義ファイルは誰が作ればよいですか
下書きは、AIを使ってレポートを作る担当者が用意できます。ただし、リードや商談の数え方・除外条件は、営業とマーケティングの責任者に確認してください。分類の軸を決める必要がある場合は、経営側も加わります。
AIを使う前に、データの流れと検算ルールを整える
AIにCRMのデータを読ませる前に整えるのは、CRMの中のデータだけではありません。記録・同意・連携・定義の4段階を点検し、AIの答えは出どころと条件を残して、人が検算できる形で受け取りましょう。
まずはAIで作るレポートや集計を1つ書き出し、点検表の5項目を確認してください。確かめられなかった箇所から整えれば、すべてを一度に変えなくても始められます。
月曜日のトラで対応できます
AIにレポートを頼んだら経営と現場で数字が合わなかった、計測を任せきりで必要なデータが取れているか分からない、Cookie同意の導入後にデータの見え方が変わった。思い当たることがあればご相談ください。4段階の点検から、HubSpotの設定、データ基盤の構築、CMPの導入・運用まで支援します。
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